不動産を売却しても、売却代金がそのまま手元に残るわけではありません。仲介手数料や契約書の印紙税のほか、住宅ローン、登記、測量など、取引条件によって費用が変わります。まず「必ず確認する費用」「条件によって発生する費用」「売却後に確認する税金」を分けると、資金計画を立てやすくなります。
先に押さえたい結論
売却費用は、全員に同じ金額がかかるものではありません。媒介契約や物件の状態、ローン残高、契約金額、売却益の有無によって変わるため、見積書・契約書・金融機関の案内を照合して確認します。
不動産売却では「売却価格=手取り」ではない
購入者から受け取る売却代金と、売主の最終的な手元資金は別です。決済時には住宅ローンの返済や仲介手数料などを精算することがあり、売却後には譲渡所得の申告・納税が必要になる場合もあります。
費用を把握するときは、売却価格に一定割合を掛けて終わりにせず、次の3つに分けます。
- 必ず確認する費用:仲介を依頼した場合の仲介手数料、紙の売買契約書を作成する場合の印紙税など
- 条件付き費用:ローン完済、抵当権抹消、測量、解体、残置物処分など
- 売却後に確認する税金:譲渡所得が生じた場合の所得税・住民税など
売却全体の順序を先に確認したい場合は、不動産売却の流れを8ステップで整理した記事も参考にしてください。
不動産売却で発生する主な費用一覧
「必須」はすべての売却で必ず発生するという意味ではなく、その条件に該当する場合に確認が必要という分類です。たとえば、不動産会社の仲介を利用しなければ仲介手数料は発生しません。
費用ごとに確認できます
| 費用 | 主な場面 | 分類 | 支払時期の例 | 主な確認先 |
|---|---|---|---|---|
| 仲介手数料 | 不動産会社の媒介で成約 | 条件該当時 | 売買契約時・決済時など | 媒介契約書、不動産会社 |
| 印紙税 | 課税対象となる紙の売買契約書を作成 | 条件該当時 | 契約書作成時 | 国税庁、不動産会社 |
| ローン完済関連 | 住宅ローン残債を精算 | ローンがある場合 | 決済前後 | 借入金融機関 |
| 抵当権抹消登記 | 担保権を登記簿から抹消 | 抵当権がある場合 | 完済・決済時 | 金融機関、法務局、司法書士 |
| 測量・境界確認 | 土地の範囲を確認 | 必要な場合 | 販売前〜引き渡し前 | 不動産会社、土地家屋調査士 |
| 解体・残置物処分等 | 引き渡し条件を整える | 合意・物件状況による | 販売前〜引き渡し前 | 不動産会社、施工会社等 |
| 譲渡所得に対する税金 | 売却による所得を確認 | 計算結果・特例による | 原則として売却翌年の申告時 | 税務署、税理士 |
費用はいつ確認する?売却の時系列で整理
売却前
ローン残高と完済手続、登記名義、境界、建物や残置物の状態を確認します。測量や解体を先に発注するのではなく、売却条件として本当に必要かを不動産会社と整理してから見積もります。
媒介契約・販売中
媒介契約書で仲介手数料の計算方法、支払時期、特別な広告等を依頼する場合の費用を確認します。通常の媒介業務と、売主が別途依頼する業務を分けて書面で確認すると、精算時の認識違いを減らせます。 契約方式ごとの違いは、一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の比較で確認できます。
売買契約
紙の売買契約書を作成する場合は、契約金額に応じた印紙税を確認します。仲介手数料の一部を契約時に支払う取り決めなら、その金額と残額の支払時期も確認します。
決済・引き渡し
残代金の受領と同時期に、ローン完済、抵当権抹消、仲介手数料残額などを精算することがあります。実際の順序や送金方法は取引と金融機関によって異なるため、決済明細を事前に受け取って確認します。
売却後
譲渡所得を計算し、確定申告の要否や利用できる特例を確認します。売却代金、取得時の契約書、仲介手数料、測量費などの領収書はまとめて保管します。
仲介手数料は「法令上の上限」と「実際の請求額」を分けて見る
仲介手数料は、不動産会社が売買の媒介を行い、取引が成立した場合に支払う報酬です。国土交通省告示は、宅地建物取引業者が依頼者の一方から受け取れる報酬の上限を定めています。上限額そのものを必ず請求されるという意味ではなく、実際の金額と支払時期は上限の範囲で媒介契約により確認します。
通常の上限は価格帯ごとに計算する
課税事業者である宅地建物取引業者の場合、売買代金のうち200万円以下の部分は5.5%、200万円を超え400万円以下の部分は4.4%、400万円を超える部分は3.3%が、消費税等を含む上限です。計算の基礎となる代金には、売買に係る消費税等相当額を含めません。
売買代金が400万円を超える場合、「売買代金×3%+6万円」に消費税等を加える速算式が使われることがあります。これは価格帯別計算を簡略化した上限計算であり、すべての価格帯にそのまま使える一般式ではありません。
800万円以下の物件には現行の特例がある
2024年7月1日以降、売買代金が800万円以下の宅地・建物は、使用状態を問わず「低廉な空家等」の特例対象になり得ます。媒介に要する費用を考慮し、通常上限を超える報酬を受ける場合でも、依頼者一方からの上限は税込33万円です。
特例を使って通常上限を超える場合、不動産会社は媒介契約時に上限内の報酬額を説明し、依頼者と合意する必要があります。物件価格だけで自己判断せず、特例の適用有無と請求予定額を媒介契約前に確認してください。
売買契約書の印紙税は契約金額と作成方法で確認する
不動産の譲渡に関する紙の契約書は、記載された契約金額に応じて印紙税の対象になります。2027年3月31日までに作成される、記載金額が10万円を超える不動産売買契約書には軽減措置があります。
| 契約金額 | 軽減後の印紙税額 |
|---|---|
| 100万円超〜500万円以下 | 1,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 1万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 3万円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 6万円 |
上表は代表的な価格帯の抜粋です。変更契約書等が課税対象になる場合もあるため、実際に作成する契約書と作成時点の制度を確認してください。
住宅ローンが残っている場合に確認する費用
住宅ローンが残る物件では、まず借入金融機関から完済予定額と手続期限を確認します。売却代金で完済できるか、自己資金が必要かによって資金計画が変わります。
- 決済予定日時点のローン残高と利息
- 全額繰上返済の申込期限と手数料
- 抵当権抹消書類の受け取り方法
- 決済当日の送金・精算方法
繰上返済手数料や手続方法は金融機関・契約により異なります。住宅金融支援機構も、完済後に抵当権抹消手続が必要であり、抹消関係書類は金融機関から交付される流れを案内しています。売却が決まる前でも、借入先へ必要日数を確認しておくと決済日程を組みやすくなります。
登記に関する費用
抵当権が登記されている場合、完済しただけでは登記簿上の抵当権は自動的に消えません。抵当権抹消登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。土地と建物をそれぞれ1個として申請するなら合計2,000円になります。
司法書士へ依頼する場合は、登録免許税とは別に報酬や実費が発生します。その金額は依頼内容によって異なるため、見積書で内訳を確認します。また、登記上の住所・氏名が現在と異なる場合などは、別の登記や書類が必要になることがあります。
物件によって発生する可能性がある費用
次の費用は、物件の状態や買主との引き渡し条件によって必要性が変わります。「売却なら必ず実施するもの」と考えず、費用をかける目的と、誰が負担する合意なのかを先に確認してください。
- 測量・境界確認:境界が不明確な土地や、契約条件として測量が必要な場合
- 建物の解体:更地渡しを条件とする場合など
- 残置物処分:家具・家財等を売主負担で撤去する場合
- ハウスクリーニング・補修:販売方針や引き渡し条件として実施する場合
- 引越し・仮住まい:引き渡し前に退去する必要がある場合
- 証明書等の取得:印鑑証明書、住民票、固定資産評価証明書等が必要な場合
支払った費用がすべて税務上の「譲渡費用」になるわけではありません。国税庁は、譲渡費用を売るために直接かかった費用とし、維持・管理のための修繕費や固定資産税等は含まれないと案内しています。支出の目的が分かる見積書・契約書・領収書を保管してください。
売却で利益が出た場合に確認する税金
土地や建物の譲渡所得は、単純に売却価格へ一定税率を掛けて計算するものではありません。国税庁が示す基本的な考え方は、次のとおりです。
譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)= 譲渡所得金額
実際の課税では、所有期間、建物の減価償却、取得費、譲渡費用、特別控除などを確認します。マイホームや相続した不動産などでは特例の検討が必要になる場合があります。適用可否や申告方法は個別事情で変わるため、税務署や税理士へ確認してください。
なお、土地・建物を売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えるかどうかで、長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分が変わります。本記事では費用の全体像に留め、個別の税額計算は行いません。
手取り額はどう考える?
売却前の資金計画では、次のような形で「決済時までに動くお金」と「売却後に確認する税金」を分けて見積もります。
売却代金
− 売却に伴う費用
− 住宅ローン返済等
− 必要に応じて支払う税金
= 手元資金を考える際の基本イメージ
これは税務上の計算式ではなく、資金計画の整理方法です。手付金の受領、固定資産税等の清算、ローン返済のタイミングなどにより、決済日当日の入出金と最終的な手元資金は一致しない場合があります。
費用を確認するときの注意点
- 上限額と請求額を混同しない:仲介手数料は媒介契約書の合意内容まで確認します。
- 必須と提案を分ける:クリーニングや解体等は、何のために必要かを確認してから判断します。
- 支払時期を確認する:契約時・決済時・売却後のどこで必要になるかを資金予定表へ記録します。
- 税務上の譲渡費用とは分ける:実際の支出と、譲渡所得計算で差し引ける費用は同じ範囲とは限りません。
- 口頭だけで決めない:見積書、媒介契約書、決済明細、領収書を残します。
不動産会社の説明を比較するときは、売却を任せる不動産会社の7つの確認ポイントも参考になります。 一括査定を検討する場合も、サービス利用料と売却に伴う費用を分けて考えるため、一括査定の仕組みと注意点を確認してください。
売却前に作っておきたい費用チェック表
- □ 仲介手数料の計算方法・請求額・支払時期を確認した
- □ 800万円以下の物件では特例の適用有無を確認した
- □ 売買契約書の作成方法と印紙税を確認した
- □ 決済予定日時点のローン完済額を金融機関へ確認した
- □ 抵当権抹消に必要な書類と費用を確認した
- □ 測量・解体・処分等が本当に必要か確認した
- □ 誰が負担する費用か契約条件を確認した
- □ 契約時・決済時・売却後に分けて支払予定を整理した
- □ 取得時と売却時の契約書・領収書を保管した
- □ 税務判断が必要な項目の確認先を決めた
まとめ|費用を時期と条件で分けて手元資金を考える
不動産売却の費用は、売却価格から一律に差し引けば分かるものではありません。まず仲介手数料や印紙税を確認し、ローン・登記・測量・解体などの条件付き費用、売却後の税金を分けて整理します。
売却前、契約時、決済時、売却後の時系列で見積書と支払時期を並べると、「決済日に必要なお金」と「最終的な手元資金」を混同しにくくなります。
参考情報
- 国土交通省「宅地建物取引業法関係」(報酬告示、確認日:2026年8月23日)
- 国土交通省「不動産取引に関するお知らせ」(低廉な空家等の特例、確認日:2026年8月23日)
- 国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」(確認日:2026年8月23日)
- 国税庁「不動産等を売却した方へ」(確認日:2026年8月23日)
- 国税庁「譲渡費用となるもの」(確認日:2026年8月23日)
- 法務局「登録免許税の計算」(確認日:2026年8月23日)
- 住宅金融支援機構「完済された方」(確認日:2026年8月23日)

